「大変なことなんだ」
全員が集まるのを待って切り出した雷蔵の第一声はそれだった。
真夜中、鉢屋と雷蔵の部屋には、他に竹谷と兵助が首をそろえていた。全員白い夜着をまとい髪をおろし、後は寝るだけという楽な格好をしている。
しかし顔だけは真剣そのものという表情で、雷蔵が言葉を続けるのを待っていた。
「明日、伊作先輩に、何かあるかもしれない」
しかし一語一語区切るように言うと、それきり雷蔵は口をつぐんだ。沈黙が続き、仕方なく竹谷が続きを促す。
「何かってなんだよ」
「いや、それはよく分からないんだけど、でも、何か……多分、悪い事が」
「悪い事って、例えば?」
「いやだから、それはよく分からないんだけどさ」
「だー、何なんだよそれっ!」
じれた竹谷がぼさぼさ髪をかきむしれば、隣の兵助は冷静に尋ねた。
「何故悪いことが起きると思うんだ。順を追って話してくれ」
「ええと……」
雷蔵はちらりと傍らの鉢屋に目を向けてから、二人に向き直った。
「今、中在家先輩が、西洋占星術に凝ってるんだ」
「はあ」
聞き慣れない単語に、戸惑いを隠せない二人は、そろって瞬きを繰り返した。
「えーと、確か、その人が生まれた日付や時刻などから運勢を占うものなんだよね」
「要は西洋の占い……か」
「しかしなんで中在家先輩がそんなものに凝ってるんだよ」
竹谷の疑問はもっともと言えた。中在家長次といえば、沈黙の生き字引と呼ばれる。博覧強記にして、質実剛健。占いなどという浮ついたものに信を置くようには見えない。
「占いというより、今、南蛮の本に凝ってるんだ。で、この前、福富屋さんからまわってきた南蛮の本の中に、その西洋占星術の本があってさ」
「成程」
「それで読んで、実際に占ったりしてたんだよ。結構よく当たってたからびっくりしたなー」
「へええ」
常日頃、占いとは縁のない身であるのに加えて、南蛮ものである。今一つ、どころか二つも三つもぴんと来ない兵助と竹谷は曖昧に頷いた。
「……で、その南蛮の占いと、伊作先輩とどう関係があるんだ?」
竹谷の問いかけに今度こそぴんときた兵助は、声を潜めた。
「もしや、その占いで、何か悪い卦が出たとか?」
「そうなんだよ」
雷蔵は重々しく頷いた。
「なんでもその占いによると、伊作先輩は明日、ものすごい不運に見舞われるらしいんだ。なんか、十年に一度あるかないかという、不運の日らしい」
「えええ!?」
思わず兵助と竹谷は顔を見合わせた。ただでさえ、不運な生徒が集まる保健委員に六年続けて選ばれ、現在はそのトップを務める、不運中の不運、ザ・ベスト・オブ・不運が見舞われる十年に一度の不運とは、一体どんなものなのか!?
「ぐ、具体的に、どんな悪いことが起こるんだ?」
「それは分からない」
勢い込んで聞く竹谷に、雷蔵は静かに首を振った。
「僕も聞いてみたんだけど、そういうはっきりした事は分からないって。ただ、明日、伊作先輩は完全に運に見放される、何か悪いことが起きるかもしれない……そう、中在家先輩は仰ってた」
完全に運に見放される、それってどんな状態だろう、と兵助は考えてみた。幸運に恵まれない、くらいならいい。でも、あの先輩のことだ。どんなひどいことに巻き込まれるか……。
「なんとかしないと」
気がつけばそう口走っていた。その兵助の呟きに、弾かれたように竹谷が顔を上げる。
「そうだ、なんとかしないと!俺たちが伊作先輩を不運から救うんだ!」
「でも、どうやって」
「そ、それは……」
何度もそれについて考えてきたのだろう、間髪を入れない雷蔵の一言に、流石の根明も言葉に詰まった。
「ふっふっふっふっふ」
その時、地の底から笑い声が響いてきた。否、地の底から響くかのような笑い声が急に沸き起こった。
「な、何なんだよ三郎!」
いきなり沸いた不気味な笑い声に三人が座ったまま腰を抜かす。しかし、付き合いの長い分耐性のある雷蔵が、いち早く立ち直ると声を上げた。
「どんな災いが起こるかは、明日になってみなければ分からないとしても。しかし!何が起ころうとも伊作先輩を守ってみせる、その意気があれば対処出来ない事はない!」
鉢屋は拳を握ると、にやりと笑い、居並ぶ面々を見渡した。
「俺たちはこれでも忍術学園の五年生だぜ。明日一日ぐらい、人一人守れないでどうする。俺たち四人が力を合わせたら、どんな不運も打ち砕ける!」
珍しく熱い鉢屋の言葉に三人はぽかんとするばかりだったが、次第に言葉の意味を飲み込むと、次々と表情に力が満ちてきた。
「そうだよな。忍者になれば、要人を警護する任務に就くこともある」
「事に当たっては臨機応変!何が起きても対処出来るのが忍者だぜ!」
「僕らが力を合わせれば、なんとかなるよね!」
三人の気力に満ちた顔を見ると、鉢屋は満足げに頷いた。握りしめた拳を高々と上げる。
「明日一日、伊作先輩を不運から守り通してみせるぞ!」
「おう!」
鉢屋の檄に三人が応え、五年生は更に結束を深めた。
「……そこでだ」
「何?」
突如声を潜めた鉢屋に、明日の打ち合わせかと三人が顔を寄せる。
「会の名称を決めたいと思う」
「名称?」
何のことかと訝しげに兵助が聞き返した。何かを察知した雷蔵が微妙な表情になる。
「そう、明日一日、我々は伊作先輩を守る、その我々の呼称は……『伊作先輩を守り隊☆』これでどうだ!」
自信満々な鉢屋から、しかし他の三人は目をそらした。
「三郎ってさ」
「うん」
「そうなんだよね」
残念そうな顔でぼそぼそと呟き合う三人に、鉢屋が切れた。
「何なんだよ、言いたいことがあるならはっきり言え!」
鉢屋にそう言われて、残る三人は渋々ながら顔を上げた。
「三郎は武芸の腕前でも術でも六年をしのぐとか言われるほどの、出来る奴なんだけどなー」
「変装のセンスはいまいち、だとは思ってたけど」
「ネーミングセンスも無かったとはな」
「うっ」
好き放題言われて、流石の三郎も言葉に詰まった。そこへ兵助が追い打ちをかける。
「ひょっとして、さっきからずっと黙ってたのは、この名称とやらを考えてたのか?」
「ぐっ」
図星だったらしい。膝を抱えてのの字を書き始める鉢屋の頭を、犬にでもしてやるみたいに竹谷が撫でた。
「時間かけて考えてた割には、いまいちってゆーかなんつーかなあ」
「まあまあ。ほら、三郎にセンスがないのは今に始まったことじゃないしさ」
「……雷蔵、トドメをさしてどうする」
「え、ええっと。……とりあえず『善法寺伊作先輩を不運から守る会』くらいでどう」
「賛成」
「異議なーし」
「じゃ、決定ということで」
ぽん、と雷蔵が手を打ったところで、床にしゃがみ込んでいた鉢屋がいきなり起きあがった。
「ちょっと待ておまえら、俺がせっかく考えた名前を……!」
「そんじゃまた明日ー」
「うん、がんばろうねー」
「おやすみー」
しかし、雷蔵が手にしていた枕によって沈められたため、鉢屋の意見が通ることはなかった。
かくして、『善法寺伊作先輩を不運から守る会』は結成されたのであった。
☆
「……とはいえ、なかなか一筋縄では行かないんだな、これが」はあ、と雷蔵はため息をついた。
「やっぱりあの占い、よく当たるよ。今日は絶対、伊作先輩、運に見放されてる」
「何があったんだ?」
兵助は箸を止めて雷蔵の顔を見た。
昼休みの食堂は、大勢の生徒で賑わっている。その卓の一つに兵助と竹谷が並び、向かい合うようにして雷蔵が座っていた。
「朝、先輩が起き出してくる前に、六年長屋に行ってみたんだ、そしたら」
「そしたら?」
「七松先輩かなあ、廊下に泥の足跡がついててね。ちょうどは組の部屋の前にもあって、あれ、気がつかなかったら、泥を踏んで足を滑らせてたかも」
朝の寝ぼけた状態では、廊下に異状があるかなんて警戒しない。さもありなん、と二人は頷いた。
「あと、厠を覗いたら、紙が切れててさ」
「あちゃー」
「ついでに六年生がよく使う井戸の周りだけ、誰かが派手に水をはねかしたのか、水びたしの泥まみれで」
「うわ」
「しかも桶が限界近かったらしく、持ってみたら箍が外れた」
「ひええ」
あまりのことに竹谷は震え上がったが、兵助は冷静に聞いた。
「で、雷蔵、怪我しなかったか?」
「うん、手甲は切れたけどね、腕は大丈夫。でも着替え前の夜着だったら……」
「腕が切れてたかもな」
自分で言っておきながら、竹谷は暗澹とした気分になった。六年の中で、先輩が一番に井戸を使うとは限らない。でも、伊作が怪我をする可能性があったと思うと、ぞっとしなかった。
「しかし、六年生が主に使う井戸とはいえ、手入れが悪いな。それは用具委員長の食満先輩の責任じゃないか?」
兵助の指摘に、その通りだ、と、雷蔵は頷いた、が。
「あの先輩、下級生を大事にするから、自分たちのことは後回しにしがちなんだよね」
僕ら下級生を大事にしてくれるのは嬉しい。でもそのせいで伊作先輩が怪我をするかもしれないのは、嫌だ。雷蔵もいつになく、苦みをこらえた顔つきになった。
「今、責任を追及してもしょうがないだろう。……それで雷蔵、結局どうしたんだ?」
「うん。雑巾持ってきて廊下きれいにして、厠に紙を補充して、新しい桶に取り替えて、井戸の周りは砂を撒いて泥を極力抑えて……朝から走り回っちゃったよ」
「ご苦労」
その尽力に、竹谷は素直に頭を下げた。
「で、今、伊作先輩は?」
「そろそろ授業が終わって、お昼を食べに来る頃じゃないかな。うちの組の授業が終わってすぐから三郎が張り付いてるから、大丈夫だよ」
雷蔵の答えに、兵助は息を吐いた。
「さすがに授業をさぼってまで、張り付く訳にはいかないしな……」
「まあでも、先輩の授業も今日は座学だけみたいだしさ。実技とかじゃないんんだから、多少、不運が発動したって、怪我するみたいな酷いことにはならないだろ」
「そうだな」
出来ることと出来ないことがある。この根明な見通しに望みを託すしかないか、と兵助が再び箸を持ち上げた時だった。
「あ、伊作先輩」
雷蔵の声に、兵助はとっさに振り向こうとするのをどうにかこらえる。確かに軽い足音がして、「あーお腹空いた」とか聞こえる、あの声は。
「元気そうだよ。すごく普通な感じ。見たところ、怪我とか具合が悪かったりはしないみたい」
「そっか。なら良かった」
隣の竹谷はさりげなく振り向いて様子を伺ったようだが、兵助はやめておいた。通路側に座る自分が振り向けば目出つし、二人も振り向いたりしたら、こちらが伊作先輩のことを気にかけていることを悟られかねない。相手も六年生だ、用心しないと。
その代わり兵助は、背中をアンテナにして気配を探った。「A定食お願いします」という声。「あらA定、売り切れちゃったのよ。B定でいい?」「……お願いします」。やっぱり伊作先輩、不運だな……。
「え、今日、僕、日直だったっけ!?」
不意に兵助の前方で声があがった。一年い組の黒門伝七だ。
「午後の授業で地図を使うって言ってたよね?取りに行かないと!お先!」
伝七は慌ただしく立ち上がると、お盆を持って駆けだした。ちょうど兵助の前方から来る。
このまま行けば、ぶつかる?兵助が背後に注意を向ければ、伊作はまだ食堂のおばちゃんと何やら話をしている。笑い声があがって、全く伝七に気づいている気配がない。
伝七はやたら慌てふためいて、走るスピードが上がる。直前でかわせるつもりなんだろうけど、相手はあの伊作先輩なんだぞ、何が起こるか。ええい、ままよ。兵助は手が滑った振りをした。
「うわあっ!」
どっしゃーん。派手な音がして、兵助の真横で伝七が転んだ。お盆からこぼれた椀や皿が辺りに転がっていく。
「おやおや、大丈夫?」
近くで起きた転倒事故に気づいた伊作は、駆け寄ると伝七を助け起こした。
「怪我はない?」
「あ、はい、大丈夫です……」
何故転んだのかわからず呆然とした伝七を立たせると、その裾に付いた豆腐を払ってやった。
「食堂は特に人が多くて危ないからね。走っちゃダメだよ」
「は、はい。すみませんでしたっ」
最上級生にやんわりとだがたしなめられて、伝七はかしこまって頭を下げた。そこへ、辺りに飛び散った食器をまとめた盆が差し出される。
「俺が手を滑らせたばっかりに、悪かったな」
「あ、いいえ、そんな……」
伝七はそれでようやっと、自分が豆腐に足を滑らせたのだということに気が付いた。自分が転んだ辺りには、ぐちゃぐちゃになった豆腐が散らばっている。
久々知先輩の豆腐を、踏んでぐちゃぐちゃにしてしまった。その事実に伝七は震え上がった。
「あ、あの、すみませんでした、掃除しますっ」
「いいよ、やっとくよ」
「でも……」
顔が真っ青になっている伝七に、兵助はどうにか笑みを浮かべた。
「俺が豆腐を落っことしたんなら、俺が拭くべきだからな。お前はそれに足を取られただけだし、急いでるんだろ。行っていいよ」
「久々知先輩……っ!」
思いもよらぬ上級生の寛大さに感動して、伝七の目頭が熱くなった。その心遣いを無駄にしてはいけないと、勢いよく頭を下げた。
「ありがとうございますっ!以後、よく気をつけますから!本当に、申し訳ありませんでしたっ!」
深々と頭を下げて、走らない程度の早足で食堂を出ていく伝七から目を戻すと、伊作と目が合った。
「兵助、優しいね。いい先輩だね」
「あ、いえ」
不意打ちのにっこり笑顔がまぶしくて目を落とすと、足下には汚れた豆腐があった。そうこうしているうちに伊作は留三郎を伴って奥へ向かい、空いている席につく。
「兵助、お前……」
「最後に食べようと、とっておいた豆腐……」
「……何も言うな」
呆然と声をかけてきた同級生たちに短く言い切ると、兵助は雑巾を借りに厨房へ向かった。その背中を見送って、竹谷は卓の下で拳を握りしめる。
兵助、お前、男だな。お前がそこまでして根性見せるなら、俺も頑張らないとな。
決意を新たにすると、竹谷は残りの昼飯をかき込んだ。
☆
竹谷がその人物を見つけた時、ちょうど得物を手に出陣といった様子で歩いていた。ひらりと枝から飛び降りると、進路を塞ぐようにその人物の前に立つ。
「……何かご用ですか、竹谷先輩?」
「ちょっと頼みがあるんだ、綾部喜八郎くん」
まだ昼休みの途中だったが、校舎の裏手に人の気配はない。薄暗い木立の中、二人は向き合った。
「頼みとは、何です?」
「今日は落とし穴をはじめとする各種罠を、仕掛けないでもらいたい」
それを聞くと、綾部の眉がぴくりと動いた。
「何故です?」
「今日は伊作先輩の運勢最悪の日なんだ。そんな日にお前に活躍されちゃあ……」
「腕の振るい甲斐がありますね」
「……って、おい!人の話聞いてるのかよ!?」
詰め寄れば、綾部は平然とした表情で「聞いてます」と答えた。
「お前の作った落とし穴ないし塹壕に、伊作先輩は何度落っこちたことか。足を挫いたことだってあるんだ。頼むから、今日のところはやめといてくれ」
「……今日だけでいいんですか?」
竹谷の頼み込むような仕草に、綾部はきょとんとその大きな目を瞬かせた。
「とりあえずな。……実を言えば、この先ずっと、と言いたいところだが、そういう訳にもいかんだろ。お前の罠作りの腕を上げる機会を奪う訳にもいかないし」
しかしそれを聞いても、まだ綾部は首を傾げていた。
「伊作先輩が今日一日、罠にかからなければそれでいいんですか?」
「ああ。今日が十年に一度の最悪な日らしいから。今日さえ乗り切れば、後はなんとかなる」
「そういうものですか」
「そういうもんだ」
「……しかし、罠の設置を禁じられて、私は今日、どうすればいいのです」
やや上目遣いに、どこかふてくされているような顔で綾部が聞いた。そう言われると、元来面倒見がいい方である竹谷としては、譲歩せざるを得ない。
「とりあえず、伊作先輩の活動範囲でなければ……学園の中はやめといてくれ。裏山とか裏々山とかならいいか。そうだ、今日は裏山へ行け」
「裏山、ですか」
「不満か?」
「いえ。溜めていた宿題があるので、それを片づけることにしようと思ったんです」
ならそうしろよ、と思ったが、口には出さず、にっこり笑った。ここで相手の機嫌を損ねては元も子もない。
「それがいいんじゃないか。宿題はちゃんとやった方がいいぞ」
「手伝っていただけませんか?」
「へ?」
突然の申し出に目を丸くしていると、綾部がずいっと寄ってきた。
「ぜひ、竹谷先輩に手を貸していただきたいのです」
☆
「宿題?見ればいいの?」「はい。それで間違っている箇所など指摘していただければ、と思いまして」
伊作は淡々と述べる綾部と、その横に何故か控えている竹谷を交互に見比べた。
「いやー、主題が『毒虫とその対処方』なんで、俺も手伝ったんですけどね。毒虫はともかく対処方の方は、俺でもちょっと分からない部分が多くて。やはりここは伊作先輩でないと」
苦笑いを浮かべつつ頭を掻きながら、内心泣きそうだった。四年生程度の宿題、この生物委員五年生に出来ない訳はないんだ。実際、完璧にまとめ上げる自信はある!
しかし、綾部に手を貸すと約束したから。まさか『綾部が伊作先輩に宿題を見てもらう事』に手を貸すことになろうとは思ってもみなかったが……ああどうせ、俺じゃ頼りないさ。手当てなら伊作先輩の方が詳しいさ。だが約束は約束だ。ここで我慢すれば、伊作先輩に危険が及ぶ確率がぐっと減る。竹谷はなんとか笑顔を作った。
「すみません、先輩。綾部の宿題、見てやって下さい。俺からもお願いします」
「……そんなに頼まれちゃあ、断れないね。いいよ、見てあげる」
二人そろって頼み込んだのが良かったのか、意外とすんなり承諾してくれた。伊作の微笑んだ顔に後光が差すのを見て、竹谷は頭を垂れた。
「すみませんっ!先輩もお忙しいでしょうに、ありがとうございますっ!」
竹谷が床にこすりつけんばかりにすると、隣で綾部も頭を下げた。
「ありがとうございます。よろしくお願いします」
「いいよ、昼休み中に終わればいいんだけどね」
「これなんですが……」
「どれどれ」
綾部が何枚かの紙を差しだし伊作が受け取ったところで、「それじゃ俺はこれで」と竹谷は医務室を辞した。なるべくゆっくり戸を閉めて。それでも立ち去りがたく、戸の前でうろちょろしていると。
「これぐらいの答え方でいいんなら、竹谷も分かってると思うんだけどなあ。別に、僕のところに持ってこなくても……」
戸惑うような伊作の声。ですから、俺はそいつの計略の片棒を担がされただけで!しかしそう叫ぶ訳にもいかず、竹谷は戸の前で悶えるしかない。
「ええ、私も最初は竹谷先輩に聞いたのですが、どうやら竹谷先輩は今日、お忙しいようで」
「ふうん。今日、何かあるのかな」
「さあ。……多分私は、たらい回しにされたのです」
「え?」
「この前も罠のことで怒られましたし。私は竹谷先輩に疎まれているのです」
「綾部……」
少しの沈黙と、ささっという衣擦れの音。気になってほんのわずか戸を開けて見ると、ちょうど、伊作が綾部の手を握ったところだった。
「大丈夫。疎まれてたりとかそんなことは多分ないし、それに、宿題は僕がちゃんと見てあげるからね。気を落としちゃだめだよ」
「伊作先輩」
ごくわずか。うっすらとだが、綾部の頬は上気していた。目元も少し潤んで、竹谷と対峙していた時とは雰囲気が全然違う。そのしおらしげな様子に、竹谷はようやく綾部の意図を理解した。
綾部は伊作先輩に接近したくて。しかし落とし穴に落としまくっている以上、そうおいそれとは近づけなくて。つまり、俺は、伊作先輩に近づくだしにされた訳か。
竹谷は何事か叫びたい衝動に駆られた。しかし、今ここでそうする訳にはいかない。
ともあれ、これで伊作は昼休み中、医務室を出ることはない。外を歩いて罠にかかる心配はない。しかも綾部の協力も取り付けた。成果はあった。
忍びは結果こそが全て。そう強くこころに念じると、竹谷は音を立てないようにして医務室前の庭へ飛び出し、いずこへともなく走り去った。
☆
「放課後こそが勝負だ」そう、三郎は言った。そうだろうと思う。そこで役割分担を決めた。兵助が伊作先輩に張り付き、鉢屋がその補佐兼連絡係、竹谷は綾部の掘った落とし穴を埋め戻しに行き、自分はそれ以外の罠の解除に当たっているけれども。
「……なんでうちの学園って、こんなに罠が多いんだろう……?」
罠を外してサインを消して、警戒線を切って。伊作が落とし紙の補充に辿るであろうルートを中心に解除すればいいので、そう広い領域を回る必要はない。しかしこれまでにいくつ罠を解除しただろう。既に片手では足りない。
競合地域と言えばもっともらしいが、基本的に学園内に味方ではない者、敵や曲者が入って来ることが問題だ。これらの罠は何のために仕掛けられているのだろう。まず滅多にこない外部からの侵入者に備えてか、単にその罠を作ってみたかっただけか、それとも。
「どうだ、様子は」
「三郎」
小石のサインをけちらしたところだった。頭上の枝に止まっていた鉢屋が、雷蔵の傍らにひらりと飛び降りる。
「伝令だ。兵助がやられた」
「えっ……?」
やられたというのは、誰に、どうして。思わず緊張した雷蔵に「それがなあ」と鉢屋はのんびり続けた。
「今、先輩が落とし紙の補充に出かけたところでさ。兵助が先回りして、厠の様子を確かめたところ、紙のない個室があって」
「うん」
「ていうか、紙があるんだかないんだかよく見えなかったから、個室に入って確かめようとしたところ、床板を踏み抜いた。……腐ってたらしい」
「なっ……!」
雷蔵は絶句した。厠の床板踏み抜いたということは、つまり。
「踏み抜いた挙げ句、焦って動いたのが悪かったらしい。そのまま下まで落っこちて……」
「可哀想に、兵助……」
雷蔵は心の中で手を合わせた。本当は伊作先輩の身辺警護役になった兵助が羨ましかったけど。僕は罠解除役で良かったのかもしれない。
「という訳で雷蔵、罠は後回しだ。伊作先輩に張り付いてくれ」
「分かった。それじゃあ、三郎は?」
「俺はちょっとな」
「……は?」
「ああ、あと、生物園から毒虫が集団脱走したって」
「……へ?」
「ハチがその後始末に駆り出されたから。後はよろしく」
「よ、よろしくって、ちょっと待って!」
「じゃ、あっちで待ってるからね〜」
「あっちでって……三郎、僕一人で先輩を守れっていうの!?」
叫べども、既に鉢屋の姿は校庭の向こうに消えていた。
「何が『伊作先輩を守り隊☆』だああー!」
雷蔵は頭を抱えて座り込んだ。突如、隊員一名になってしまった。守る会存亡の危機。っていうかそんな会どうでもいいけど、伊作先輩の不運はどうなるんだ。
仕方ない。僕一人でも先輩を守る。雷蔵は覚悟を決めると立ち上がり、伊作のいるであろう辺りに向けて走り出した。
☆
「いさ、く、せんぱい……?」「ああ雷蔵、動いちゃだめだよ」
薄ぼんやりした視界の中、ぶれてぼやけていた人影が像を結んだと思ったら、憧れの人だった。
見慣れた天井。壁、机、行李。そうしたものの中に、伊作の姿があった。
「どうして、先輩が僕の部屋に……?」
「覚えてない?落とし紙の補充に回ってたら、いきなり雷蔵が飛び出してきたんだよ」
「……ああ」
そうだ。あちこち走り回る先輩の後をつけてたら、どこからともなく砲弾が飛んできたんだ。
「それで、砲弾には当たらなかったけど、地面におもいっきり頭をぶつけてさ。大きなたんこぶになってるよ」
「先輩は、ご無事ですか……?」
あの砲弾は、まっすぐ先輩めがけて飛んできたんだ。当たったらひとたまりもない。そう思って自分は先輩と砲弾の間に飛びこんだのだと、雷蔵ははっきりと思い出した。
「うん、雷蔵のおかげでね。ごめんね、ありがとう」
「良かった……」
雷蔵はほうっと息を吐いた。先輩が無事ならそれでいい。安心したら、急に頭が痛んできた。ずきずきと脈打つように痛む部分が、瘤になっているんだろう。
「でももう、こんな無茶なこと、しちゃ駄目だよ」
ぴちゃん、と水音がしたと思ったら、頭にひんやりした物が乗せられた。冷たさに痛みが和らぐ。
「医務室よりこっちの方が近かったらから、五年長屋に運んだけど、正解だったね。軽く脳震盪だろうし、明日の朝までこのままゆっくり寝てるといいよ」
「はい……」
部屋は薄暗かった。そろそろ日が暮れるのかもしれない。
ずっと傍についていてくれたんだろうか。それなら良かった、と雷蔵は思った。この部屋には怪しい仕掛けも何もないし、医務室みたいに薬箪笥が倒れたり、急病人が運び込まれることもない。不運に見舞われることもないだろう、ここにいれば安全だ。
「明日の朝まで……」
「え?」
「あ、それは無理ですよね。でも、あの……せめて三郎が帰って来るまで、傍にいてもらってもいいですか?」
言ってから雷蔵は急に不安になった。なんだかもの凄くわがままなことを言ってないか?ちょっと頭を打って気絶しただけなのにこんな甘えた事を言って、情けない奴だと思われたかもしれない。
だけど。僕は伊作先輩を守りたい。雷蔵はぎゅっと目をつぶった。
「いいよ」
「……え」
開いた目には、にっこりと笑う伊作の顔が見えた。
「大丈夫だとは思うけど、打ったの頭だし、様子見たいし。今日は新野先生も数馬もいるから、医務室は平気だしね」
「ありがと、ございます……」
安心していい筈なのに、雷蔵の胸はきゅんと痛んだ。心の臓が握りつぶされそうなほど、切ない。
「打ったところ、痛む?」
「あ、いいえ、その、あの……少し」
「遠慮しないでいいんだよ」
再び水音。枕元に桶が置いてあるんだろう、きゅっと絞る音に続いて、冷たい手ぬぐいが頭に置かれる。
瘤の熱が冷まされて、気持ちいい。雷蔵はその感触に、うっとりと目を閉じた。
☆
「進行状況は」「まあ概ね、予定通りといったところだ」
とっぷりと日が暮れた部屋の中を、灯明があかあかと照らす。部屋に入ってきた男の問いに、髪の長い男が振り向いて答えた。
「奴らはよくやっているよ。流石は五年生、といったところか」
「だがしかし、鉢屋の姿が見えん。どこへ行ったか……」
「奴は変装の名人だからな。今頃私に化けてここにいるのかもしれんぞ」
「なっ……!」
一端腰を下ろした男が慌てて立ち上がるのを、言った側は澄まして眺めていた。そのうち、立ち上がった方も腰を下ろす。
「……まあ、奴らにバレたからといって、どうということもないか」
「そう、直接の被害者は伊作だ。その筈だった。奴らは自ら進んで、伊作の身代わりになったのだからな」
くつくつと楽しげな笑みがこぼれる。その様子をみやって、片方は溜息をついた。
「まったく趣味の悪い……」
「そうか?五年が伊作にまとわりつく様子に業を煮やして、一度懲らしめたいとお前も言っていたではないか」
「……そうだったか。しかし、一歩間違えば伊作に砲弾が直撃してたんだぞ。そこまでやるか?」
「その辺は小平太がうまくやるさ」
「厠や井戸の桶にまで細工したり……」
「流石は留三郎だったな。上手くやった」
「毒虫を学園中にばらまく念の入れようだしな」
「いや、あれは我々の仕組んだことではない」
「……は?」
「偶然だ。まあ、結果として竹谷の手を奪ったから、こちらに有利に働いたがな」
「やっぱり伊作は不運だな……」
髪の短い男は長く溜息をついた。
「長次の占い、ガセだった筈が、真実になっちまってるぜ」
「しかし奴らが守り抜いたおかげで、無傷で済んでいるではないか」
その代わり、五年生は二人沈んだ。一人は厠に、一人は長屋に。一人を守るための、代償は少なくない。
「後は鉢屋がどう出るか……」
「我々に反撃をかける、とでも?」
涼しい声は、鼻で笑い飛ばした。
「やめておけ。そんな暇があるなら、伊作を守り抜け。まだ今日という日は終わっていない」
「まだ何か仕掛けてんのかよ!?」
怒鳴り声に、長い髪が揺れて答える。
「特に何も。……だが、このまま行けば、やはり不運な結果に終わるだろう」
長い髪に似合いの、美しい顔がにやりと笑った。それを見た側は、苦虫を噛みつぶした表情になる。
「それでいいのか?」
「何がだ」
「伊作を不運な目に合わせて、それで……」
「いいも悪いも、伊作が不運なのは今に始まったことではない、それに」
「それに?」
「長年、伊作の不運に付き合ってきたんだ。何が起ころうとも、留三郎や長次がフォローするさ」
「うっ……」
そのあまりにも余裕しゃくしゃくな態度に、言われた方は言葉に詰まった。
「分かったなら、とっとと帰れ、鉢屋」
「……バレてたんですか」
「まあな」
鉢屋は潮江文次郎の皮を引きはいだ。その様子を、立花仙蔵が楽しげに眺めている。
「なあ、鉢屋。前からお前等に聞きたかったのだが」
「何です?」
「なぜ、そうまで伊作にこだわる?」
表情は余裕たっぷりの笑みだが、その瞳の中には独特の鋭さが見えた。鉢屋はおどけたように肩をすくめる。
「同じ言葉を、そっくりお返ししますよ。……っと」
指を一本立てると、にっこり微笑んだ。顔の持ち主である、不破雷蔵の笑みを意識して。
「そうそう、今日に限ってなら、理由があります」
「今日に限って、か。それは何だ」
「それは俺が『伊作先輩を守り隊☆』の隊長だからです」
「はあ?」
あくまでもにこやかに言い切る鉢屋に、珍しく仙蔵は目と口をあんぐりと開いた。
「何だそれは」
「あ、正式には『善法寺伊作先輩を不運から守る会』だっけ。……それでは、失礼いたします」
すっと戸口に寄ると、廊下に手をついて一礼した。雷蔵らしい丁寧さで障子を閉める。
「……売られた喧嘩は買う、ということか」
部屋に残された仙蔵は、憮然とした面持ちで呟いた。
☆
「あ、もう片づけちゃったんだ……」綺麗に整えられた厨房と、今日の当番の一年生二人を交互に見比べて、伊作の笑みが固まった。
「なんか今日、片づけるの早くない?」
「ええ、でも、もう定食も全部売り切れましたし」
「食券の数からして全員食べただろうから、とっとと片づけろって立花先輩が」
ねー、と顔を見合わせる二人を見て、伊作は頭を抱えた。食べてない者がここにいるというのに仙蔵は、几帳面な上にせっかちなんだから!
「でも、伊作先輩がこうしてるってことは、先輩、晩ご飯食べてないんですか?」
庄左ヱ門の質問に、伊作は抱えていた頭を上げた。
「うん、今日は長屋に寝てる子についてたからさ。医務室にいたら、閉室と同時に駆け込むから、いつも何とか間に合うんだけど……」
さきほど、毒虫回収がようやく終わった竹谷が帰ってきたから、交代したのだった。出来れば自分と竹谷の二人分、食欲の無さそうな雷蔵を除くとしても、夕飯を確保したかったのだが。
「残り物とか、何かない?何でもいいんだけど」
「でも、鍋もかまも、全部洗っちゃいましたしねえ……」
綺麗好きで知られる伊助の視線をたどれば、ぴかぴかに磨かれた鍋やかまがきちんと整列して並べられている。
「やっぱりだめか……」
「す、すみませんっ」
自分たちが悪い訳ではないが、伊作のあまりにしょげかえった様子に、一年生は口を揃えて謝った。
「あ、いやいや、大丈夫だよ。……留三郎とか長次とかせっつけば、何か出てくるだろうし。煎餅とか餅とか」
一年生に気を遣わせてはいけないと、伊作は手を振った。にっこり笑顔を作る。
「うん、心配しないで。一食や二食抜いたって、死にはしないし、ね」
「伊作先輩」
しかし、そんな伊作に、庄左ヱ門は何かを差し出した。竹の皮で包まれている。
「これ、良かったらどうぞ。……かまを洗う前に、残りご飯で作ったおにぎりです。全部洗い終わったら食べてもいいよって、おばちゃんからもらったのですが」
「え……」
竹の皮の大きさからして、ゆうに二人分はあるだろう。庄左ヱ門と伊助の分、当番のご褒美に違いない。
「でもそんな、悪いよ」
「いえ。僕らはちゃんと、晩ご飯を食べましたし」
ねー、と再び顔を合わせてうなずき合うと、二人そろってにっこり笑った。
「だから先輩、よかったら持ってって下さい」
「空きっ腹抱えて寝るのって、辛いですもんね」
どうぞ、と突き出されるそれに、伊作はおずおずと手を伸ばした。
「いいのかな、本当に」
「いいですよー、どうぞ!」
伸ばされた手に竹包みを押しつけると、よい子二人は、えへへ、と鼻の下をこすった。
「ありがと……!」
伊作は受け取った包みを抱きしめるようにして抱えた。
「凄く助かる。本当にありがとう!今度ゆっくりお礼するね!」
「いやそんな、いいですよー」
「気にしないで下さい」
「今日はなんだかいい日だと思ってたけど、最後の最後まで本当についてたなー」
はにかむよい子たちの頭をぐりぐりと撫でながら、伊作はそんなことを言った。それを受けて、庄左ヱ門が聞いてみる。
「今日って、いい日だったんですか?」
「うん。なんか全然、不運な目に合わなかった。落とし穴にも落ちなかったし。僕には珍しく、いい日だったよ」
にっこり。とても晴れやかな表情で伊作は笑った。
「おにぎりももらえたしね。庄左ヱ門、伊助、本当にありがとう!」
じゃあね、と去っていく伊作の背中を見送って、その姿が廊下の向こうに消えたのを確認してから、庄左ヱ門は厨房の中を振り返った。
「……これでいいんですか、鉢屋先輩?」
「上出来」
「ご苦労だったな、伊助」
「久々知先輩」
いつの間にか厨房にいた二人に、一年生達は駆け寄った。よい子二人の頭を、鉢屋と兵助がそれぞれに撫でてやる。
「ちょうど二人が食堂の当番で良かった」
「さ、俺たちも手伝うから、さっさと片づけ終わらせよう!」
鉢屋が腕を振りあげれば、他の三人も「おー!」と答えた。
「……なあ、三郎」
手にした布巾で食器を拭きつつ、一年生が洗い場で食器の山を崩すのを見守りながら、兵助は鉢屋にそっと近づいた。
「何だよ」
「十年に一度の不運の日って、俺たちのせいか?」
水をはねかす二人には聞こえないだろうが、それでも一応声を潜めて聞く。
鉢屋は一瞬だけ眉を震わせると、にやりと笑ってみせた。
「最初っから気づいてたのか」
「どうかな」
「……全く、そういうもんだと分かってたら、もうちょっと警戒の仕方が変わったのに」
それを聞いて思わず鉢屋は、兵助の髪に目をやった。一通り乾いてはいるが洗い髪だ。制服もいつもよりぱりっとして、着替えたばかりなのに違いない。
「まあでも、お陰さんで向こうの溜飲も下がったみたいだし。釘は刺しといたからさ。下手に遠慮することはないだろう」
疑いの目でこちらをみる兵助に、鉢屋は大きく頷いた。俺たちが伊作先輩に近づくことを、六年生の皆様方は面白く思わないらしい。
でも、だからって、先輩に累が及ぶことを恐れて、遠ざかるなんて勿体無い。あの笑顔。今日はいい日だったと語る、あのにこやかな笑顔を見てしまったからには、そんな勿体無いこと出来そうに無い。
「守ればいいのさ。また、いつでも。何度でも」
「……そうだな」
ようやく愁眉を解くと、兵助は拭いた食器を鉢屋に押し付けた。その食器を鉢屋は棚にしまう。
「次も負けない。むしろ、ぎゃふんと言わせてやる」
厠に落ちたことがよほど悔しかったらしい兵助は、珍しく闘志を燃やしていた。さもありなんと思いつつ、鉢屋も絶対、負ける気はなかった。
きっと今頃、伊作先輩と一緒に握り飯を頬張ってる竹谷も、雷蔵も。同じ気持ちなのに違いない。勝てなくたって決して負けない。きっと守り抜いてみせる。
何度でも、必要とあらば『善法寺伊作先輩を不運から守る会』はよみがえる。いや、次は『伊作先輩の笑顔が見隊☆』でもいいんじゃないかと、鉢屋は考えていた。
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